ドローンの“トップガン”を育てる!消防庁が研修強化、全国普及には課題も。

総務省消防庁とセンシンロボティクスは、1月29日から31日にかけて、福島県の「ロボットテストフィールド」で「ドローン運用アドバイザー」の育成研修を実施した。災害発生時に運用するドローンの普及に向けた取り組みで、今回が初の開催となる。

消防庁では、大規模火災や土砂崩れの現場など、消防隊員が接近できない場所におけるドローンの有用性を期待している。2019年6月現在は、全国726の消防本部のうち、201本部がドローンを導入しているという。また、未保有の本部でも、525本部中66本部が導入を予定している。消防庁は今後のさらなる導入、および安全・効率的なドローンの運用に向け、今回の研修を開催した。

今回の研修では、全国の消防本部から計15人の隊員が参加。いずれもドローンを運用している消防本部等において、常時ドローン運行に関わり、かつ指導的な立場にある隊員だ。15人は、座学および実技による訓練を通し、アドバイザーとして認定される。

研修では、ドローンの離着陸やホバリングといった基礎内容から始まり、土砂災害や火災など、実際の現場を想定したエリアで訓練を実施。ドローンの操縦のみならず、カメラの操作など、実運用で必要となる技量の向上を目指したカリキュラムが実施された。

消防庁は今後、2020年度から2023年度までの間、各年度2回ずつ研修を実施する予定。2023年度までに、今回の15人を含む135人のアドバイザーを育成する計画だ。

育成したアドバイザーは、ドローンの普及啓発・技術継承に向け、研修講師として派遣する。ドローン未導入消防本部等を対象とした消防大学校の研修などに従事し、各消防本部のドローン普及率や操縦技術の向上を目指す。

消防本部のドローン導入率は3割

消防分野におけるドローンの活用は、どのレベルまで進んでいるのか。消防庁消防・救急課 課長補佐で、今回の研修で運営本部長を務めた喜多光晴氏は、現在は火災現場や捜索救助などでの情報収集が主体だと解説した。

火災現場では、赤外線カメラを搭載したドローンなどで、隊員が目視できない箇所の確認ができる。その情報を基に、ホースの方向を指示するといった運用がなされているという。

作業に危険性がともなう捜索救助や土砂災害現場といった場面でも、ドローンは有効だ。2019年の台風19号関連では、神奈川県内で発生した土砂災害現場において活躍。国土地理院の地図と照らし合わせての状況確認や、捜索現場での上空監視による安全管理などで活用されたという。

日本の消防制度では、各自治体が消防本部を設置し、それぞれが防火・防災に対応するのが基本となっている。そのため、ドローンなどの装備品についても、各自治体それぞれが整備・運用することとなる。

一方、大規模災害が発生した際には、所管消防本部だけだは対応しきれないこともある。そのような場合には、全国各地の消防本部から災害発生地へ「緊急消防援助隊」が派遣され、これを支援することとなる。

先述の台風災害では、全国の消防本部から被災地消防本部の支援に向かった緊急消防援助隊により、ドローンが活用されたという。このような背景を説明した上で、「災害発生時や広域化も考慮し、ドローンを保有する消防本部の増加を目指している」と、消防庁の方針を説明した。

一方で喜多氏は、「多くの消防本部がドローンの必要性を実感し、今後の対応に注目している一方で、まだ7割がドローンを保有していない」と説明。各消防本部に対するドローンの普及啓発を目指し、育成するアドバイザーを活用するとの狙いを語った。

また喜多氏は、ドローンの導入に際しては「ただ闇雲に増やすだけではなく、実際の災害や山岳捜索救助といった用途において、どのように活用するか」を検討する必要があると示す。それぞれの本部が持つ知見を活かし、さらにセンシンロボティクスによる研修でレベルを上げ、ドローン運用のスペシャリストを育成したいとの考えを語った。

導入に向けた課題もある。消防用ドローンでは、リアルタイム伝送システムや、赤外線カメラなど、多くの機器を搭載するため、コストが上昇傾向にある。また、ドローンの飛行時間は約20分と、ヘリコプターとの比較では大幅に劣る。

コスト面については、緊急消防援助隊を所管する消防庁広域応援室が主体となり、全国20の政令指定都市にドローンを無償で貸与。2019年度以降は、政令指定都市を持たない各都道府県でも、最低1基の配備を目指すとの方針を固めている。

一方、各消防本部を所管し、今回の研修も担当する消防・救急課では、全国へのドローン配備計画は「今のところは無い」(喜多氏)という。消防団を所管する地域防災室でも同様で、総務省から各消防本部・消防団へのドローン導入策については、現時点では各都道府県に設置された消防学校への貸与に留まっているのが実情だ。

このほか、少子化などで各消防本部の充足率が低下するなかで、ドローン運用のために部隊を編成することもネックとなる。

消防庁が2018年に定めたガイドライン「消防防災分野における無人航空機の活用の手引き」では、ドローンの運用について、操縦者と安全管理者の最低2人、映像の中継が必要な場合にはさらに1人を追加した3人を確保することが望ましいとしている。

喜多氏は、「ドローンの専属部隊を運用している本部もあれば、兼務している本部もある」と説明。今後はこの点についての意見交換を進め、運用方針を検討していくと語った。

ドローンの「トップガン」を育てる

センシンロボティクスが今回の研修に参画した理由は何か。

センシンロボティクス 代表取締役社長の北村卓也氏は、同社が注力するのは「災害対策」「設備点検」「警備・監視」の3領域だと説明。「全て日本の社会課題となる領域で、いずれもリスクが高い現場での作業。また、少子高齢化が進むために作業員のなり手もいない。しかも災害は増える一方だ」(北村氏)。これらは可能な限りロボットに担わせることで、人が現地に行かずにミッションが達成できる世界の実現を目指すと、北村氏は語った。

同社では、Jアラートの受信でドローンが自動離陸し、状況を確認できる完全自動化ソリューションなどの実証実験を、仙台市と共同で進めてきた経緯がある。

しかし北村氏は、「一足飛びに全自動化は無理」と、ステップを踏む必要があると説明。「自動化実現のためには、ドローンの『トップガン』を育て、それらが知識を広めていくといった活動が大事」と述べた。

政府では、2022年を目処に、ドローンの目視外飛行を実現する目標を立てている。現状では視認範囲内のみに限られるドローンの飛行範囲が広がれば、消防分野でもさらなる活用が見込まれる。空の産業革命の時代、防災分野でも、さらなるドローンの活用が期待されている。

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